East Japan Barber GHQ KANAGAWA -バーバーブームに収まらない本気の“床屋”集団-
近年メンズヘアシーンで巻き起こっているバーバーブーム。この世界的なムーブメントが到来するはるか昔からアメリカンクラシックに根ざしたヘアカットを追求するバーバー集団がある。その名も「GHQ」。関東屈指のバーバーから構成される彼らの神奈川支部メンバーに、猛威を振るうバーバーブームや床屋さんとしての姿勢を聞く。
男髪を任せたいクラシックバーバーの名店たち
ファッションとは絶対に切り離せないヘアスタイル。かつては原宿〜渋谷を中心にカリスマ美容師と呼ばれる者が登場し、芸能人をもしのぐ人気を獲得するにまで至った。そして近年では、インスタやツイッターといったSNSの発展で口コミから新たなカリスマたちも誕生し、カラフルなヘアスタイル、流行の先端を追求したスタイルなどを次々に提案。その中心的な役割を担うサロン「OCEAN」が日本武道館でイベントを行うなど、いちサロン(美容院)とは思えないほどの影響力を発揮するショップも数多く存在している。
数年前、そんな動きと逆行するかのように突如勃発したのが、古き良きアメリカンカルチャーに根ざした「バーバー」ムーブメントだ。七三ヘアやリーゼントといったクラシックなヘアスタイルは、男本来のかっこよさをシンプルに表現し、アンティークのインテリアなどからなる店内の落ち着いた雰囲気が、サロンに馴染めないファンの心をつかんで一躍ブームとなった。この現象は日本だけではなく、アメリカやヨーロッパを中心に世界各地でも同時多発的に出現。今では一過性のブームに終わらない定番として、メンズヘアのファーストチョイスとなるにまで至っている。
このバーバーブームが始まるずっと前から、バーバーとしてのプライドを胸に営業を続けるのが床屋魂を宿す有志集団「GHQ」だ。関東の人気バーバー10店舗からなるこの集団は、アメリカンクラシックを愛し続け、お客さん一人一人にきちんと向き合う本物の理髪師ばかり。今回はその中心メンバーである清水力氏が営む「Barber Shop S」に、神奈川支部のメンバーが集結。それぞれのバーバー観やファッションについて語ってもらった。
広がったバーバーミーティングとは差別化したくて「GHQ」が生まれた
ーー「GHQ」結成の経緯を教えてください。皆さんもともとお知り合いだったんですか?
長田 広島の先輩から「お前のところの近くにこんな人がいるよ」って清水さんのSNSアカウントを教えられたんです。「すごく似てるぞ」って。見てみたら確かに似ていたので、清水さんに友達申請したんです。「アメリカンクラシックなスタイルが好きで、海老名(現在は平塚)でやってるんですよ」って。それからほどなくして、飲みに行こうってなったんですよね。
清水 それで、どうせ飲むなら同じような連中を集めようということで、石渡君とTHE BARBA TOKYO(神田)、WOLFMAN BARBER SHOP(佐野、原宿)、LOCAL BARBER HIRAKAWA(草加)、RAVE ACTION AND HAIR!(高円寺、北千住)の面々を誘ったんですよ。
長田 新橋で平日の3時から終電くらいまで飲んでましたよね(笑)。
石渡 SNSで繋がる前からお互いに存在は知っていたし、みんな意識はしてたんですよ。でも逆に意識し合ってたから連絡はしなかった(笑)。
清水 同じ地区でやってたらライバル心はあるかもしれないけど、個々のお店が離れてますしね。すぐ隣でやってたら話は別ですよ(笑)。今ではお客さんを紹介し合ったりしてます。
飯田 特に面倒臭いお客さんね(笑)。
ーー集まったのはいつ頃なんですか?
清水 2014年でしたね。“バーバーブームの夜明け前”というかね。今みたいにフェードなんて言葉もなくて、刈り上げって言ってましたから(笑)。最初は先ほどのメンバー9人くらいで集まったんですけど、それからどんどん人が増えていって、二ヶ月に一回くらいやってたのかな。30人くらい集まったこともありますよ。
飯田 上は北海道から下は九州まで。というよりも、オーストラリアのやつが来たこともありましたね。
ーーその頃から「GHQ」という名前があったんですか?
清水 途中からその集まりのことを「バーバーミーティング」と呼ぶようになったんですよ。それで最初からいるメンバーが初期メンバーと呼ばれるようになっちゃって。だから別の名前を決めようということになったんだよね。
石渡 そうそう。この飲み会が有名になったのか、いろんなところでバーバーミーティングという名前のものができたので、差別化したかったのもあります。だから、とりあえず“バーバー文化を中心になって盛り上げていこう”という思いも込めてGHQ(GENERAL HEAD QUORTER*最高司令官総司令部)と名付けました。正式名称としてはEAST JAPAN BARBERS GHQです。
飯田 他のバーバーミーティングと区別するためだから、そんなに深い意味ではないんですよ。
石渡 字面が偉そうだなっていうことで選びました(笑)。
ーーそうなんですね(笑)。構成メンバーは何店舗くらいですか?
清水 全部で10店舗です。今日集まった5店舗、一番最初に呼んだ4店舗、HILLBILLY CAT(富津)。あとはBARBERSHOP KINGも入れちゃってください。誘ってるんで(笑)。
長田 さっきも話題に出ましたが、今では全国のいろんなところでバーバーミーティングを名乗るものがあるみたいなんです。でも、同じ名称なんだけど僕らは関係ないし、それはそれで好きにやってくれればいいと思う。
石渡 基本的に僕らは人見知りで新しい仲間を作っていく方じゃないから。僕なんて、最初の飲み会の時ですら参加しようか迷ってましたから(笑)。
阿部 だからかもしれないけど、GHQでも神奈川のバーバーで何かをやることの方が多いかな。
清水 みんな忙しいからね。それに我々5店舗もそうだけど、それぞれ趣向が異なる部分もあるんですよ。
石渡 個人と会社でやってるという違いもあるかもしれませんね。
清水 東京のメンバーはバイクやファッションとも関わりが深いし、一気に集まって何かをやるというのは実際難しい部分もあって。
阿部 神奈川のメンバーであれば場所も近くて集まりやすいし、ヴィンテージやアンティークのことで話が盛り上がったりする。
清水 みんなもともとヴィンテージやアメリカンクラシックが好きだから。
石渡 そういう点で言えば、今のバーバーショップって本当に格好いいお店を作るなって思います。
清水 今は予算といいデザイナーさんさえいれば、割と何でもできるんだよね。
石渡 2000年初頭の頃って検索のしようがなかったんですよ。だからお店を作る時も、わけわかんない輸入雑誌を調べて「これが良さそうだな」って選んでいたんです。今はそういう情報も多いので恵まれてると思います。
飯田 まぁ、ヴィンテージを肴にあーでもない、こーでもないと話をしてるのも楽しいんだけどね。
清水 最近だと、そういう話の中で「こんな白衣(バーバーシャツ)があったらいいよね」ということになったから、「ADJUSTABLE COSTUME(アジャスタブルコスチューム)」に頼んで作ってもらいました。今日みんなが着ているものがそうです。デザイナーの小高さんが来店してくれた時に「こう言うの作りたい」って言って。一応販売はしてるんですよ。主に同業者に売っています。お客さんでも普段着として買っていく人はいました。お店で売ってるわけじゃないので、欲しい人はSNSとかでメッセージを頂ければと思います。
石渡 追加生産はしてないから早い者勝ちです(7月初旬時点)。
阿部 でも、我々はこれでお金儲けをしようとしているわけじゃないんですよ。「自分たちが着たいものを作れたらいい」ということだけだったんで。
清水 ちなみにデザインの元になったのは、アメリカの昔のカタログに出ていたものなんです。
飯田 それを忠実に再現しようということになって。
阿部 1910年代のものだったよね。
清水 たまたまコレクター本に出ていたんですよ。それを小高さんに見せて、形を崩さず自分たちが使いやすいようにアレンジしてもらった。一着大体30,000円くらいです。少しあしらいが違う白い生地のタイプもありますよ。
長田 みんなヴィンテージが好きですしね。あと、コスチューム以外にも僕は個人的にシャツやスーツを仕立ててます。古い画像を見てこの襟がいいなとか、この丈感がいいなとか色々悩んで。
清水 そういうことはそれぞれみんなこだわってやってるよね。僕もこの前曽原さん(WOLFMAN BARBER SHOP)に紹介されて、FAT HATTERでハットを作ってもらいました。
ーークラシックを追求するのは格好いいですよね。その他にも活動内容があれば教えてください。
長田 一番最初はバーバーバトルの裏方として動いたのかな。運営に携わったり審査員とかやったり。でも、そういうのは色々準備が大変で疲れるから一回目だけだったね(笑)。
清水 ダンスイベントと組んでカットショーとヘアセットをやったりしています。今年は9月17日に横浜最古のダンスホールのクリフサイドで行われる大人のダンスイベント「Swingin BARRELHOUSE Jubilee 2018」でセットブースを開きます。