メジャー初フルアルバム『ドリーム銀座』を徹底解説 -サイプレス上野 INTERVIEW-

メジャー初フルアルバム『ドリーム銀座』を徹底解説 -サイプレス上野 INTERVIEW-

2018年11月28日に満を持してメジャー初フルアルバム『ドリーム銀座』をリリースしたサイプレス上野とロベルト吉野。DJ PMX、SKY-HI(日高光啓)、石野卓球、STUTSなど豪華なプロデューサー・客演を迎えた本作は、多彩な楽曲が散りばめられた一つのジャンルに捉われないカラフルな内容でありながら、しっかりと全編に渡ってヒップホップ愛が貫かれている。『フリースタイルダンジョン』を始め、テレビやラジオなど多方面で活躍するサイプレス上野に、全曲解説をしてもらった。

 

「終わりなきパーティー」って感じを

「ムーンライトfeat.mabanua」には入れたかったんですよ。

 

 

――10曲目の「新生契り」はSTUTSさんがプロデュースです。

 

上野 KMCってラッパーとやっている時からイベントで一緒になることがあって、すごく上手い後輩だなって、ずっと思っていて。ラジオにゲストで来てもらってフリースタイルをやったこともあるし、最近活躍してるし、「最高だからやってくれ!」と(笑)。

 

――11曲目の「ムーンライト feat.mabanua」はOvall(オーバル)のmabanua(マバヌア)さん。上野さんは過去にお気に入りの曲としてmabanuaの「talkin’ to you」を挙げていましたよね。

 

上野 Ovallのメンバーが良い人で、曲も好きでってのがあって。決定的だったのはRHYMESTERのファイナルで一緒になって、「なんかやれたらいいですね」って話になって作ってもらったんです。

 

――浮遊感のあるトラックですよね。

 

上野 コーラスを含めて「Mabanuaだな」って感じで、“冬の月”をイメージするような寂しさがあって。でも寂しすぎるリリックは嫌だなってのがあったんです。あと江の島に「オッパーラ」っていう最高の場所があって、“POP喫茶”って名乗ってるんですけど、DJブースがあって、夜もイベントができるんです。テレビの天気予報で江の島の定点カメラってあるじゃないですか。そのカメラが設置されたビルの4階なんですけど、全部ガラス張りで景色が超最高なんです。夕方にパーティーをやっていると、夕日の落ちるところが見られるし、オールナイトのイベントでは朝日が昇るところが見られる。そんなロケーションを気に入ってIdjut Boysは来日する時に指定で訪れるんですよ。もともとハードコア畑の店長さんがやっているんですけど、すごくローカルを大事にして、よその人がパーティーをやりたいって言っても、ローカルの奴を最優先するんです。そこで何度も経験した、「終わりなきパーティー」って感じを「ムーンライトfeat.mabanua」には入れたかったんですよ。なのでオッパーラのアンセムになると嬉しいですね。

 

――それは、ぜひオッパーラで聴いてみたいです。

 

上野 くだらない話なんですけど、去年の正月にオッパーラでパーティーをやっていて、朝日が昇る時間に富士山がめっちゃキレイに見えて、YOUR SONG IS GOODの「ON」って曲をずーっとかけていたんです。超気持ち良くて、酒しか入れてないのに高揚感が半端なくて、このまま終わりたくないなと。俺の友達なんて全裸になってましたからね。

 

――そんな最高のロケーションで(笑)。

 

上野 それを見て「ひでー!」って言いながらボーっといい気持ちになってたんですけど、インフルエンザにかかってたんですよ(笑)。あの感覚は忘れたくないなというのもこの曲にはあります。

 

 

 

ぶっちゃけヒップホップは若い奴らのものだと思うんですけど、

そこと同じようなことをしてもしょうがない。

 

 

――12曲目の「RUN AND GUN pt.2 feat.BASI&HUNGER」はLIBROさんがプロデュースで、BASI(韻シスト)さん、 HUNGER(GAGLE)さんが客演しています。上野さんはLIBROさんからの影響を過去に語っていたことがあります。

 

上野 LIBRO君が出てきた時は本当にビックリしました。歌フロウというか、メロディアスなラップをする人で、リリックは内省的。すごく好きで聴いてたんですけど、ある時にお会いする機会があって仲良くなったんです。ただ一時期、ほぼ活動休止状態になって会えなくなったんですけど、また活動を再開して、現場で会うようになって、「一緒にやりましょう」とお願いしたんです。それで届いた音源が、普段のLIBRO君と違うから、俺ってこう見えているのかなって戸惑いつつも、いい曲だなって。

 

――BASIさんとHUNGERさんをフィーチャリングした理由は?

 

上野 仙台のHUNGER君と大阪のBASI君、そして横浜の俺は、いわゆるメインストリームとは違うスタイルでやっていると思っているし、自分たちのやってることは間違いないって自信を持っていて、ヒップホップ愛も半端なくて、会話をすると同じ言葉を持っている人たちだなって感じるんです。

 

――13曲目の「青春の決着」はZOT on the WAVEさんのプロデュースです。

 

上野 「RHYMESTER presents 人間交差点」の時に楽屋で会って、「トラック送ってくんない?」って頼んだら、すごい数を送ってきたんです。ただ先に「青春の決着」ってフレーズがあって、それに合ったオケを選びました。

 

――トラックもそうですけど、リリックもかなりシリアスな内容ですよね。

 

上野 「青春の決着」ってフレーズ自体は、「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」を手掛けた岡宗秀吾さん(テレビディレクター)の著書『煩悩ウォーク』に出てくる言葉で、いいフレーズだなって思ってたんです。俺の友達が一昨年死んじゃって、追悼イベントで、当時俺たちが組んでいたグループのTシャツを再販するってインスタに書いたら、秀吾さんから「青春の決着だ」って返って来たから、「さすが! その通り」って。あと地元に昔の仲間が集まる店があって、そういう場所があることはいいことでもあるけど、「何でいつまでも変わらないんだ」って嫌気がさすこともあるんです。たまに夏祭りで帰ってくる元不良の後輩とかは、社長とか弁護士になっている。でも毎日のように、その店にいる奴らは面白いけど、ちょっとダメだろうって思うことが多々あって。それに対する警鐘というか、この曲を聴いてどう思うかって問いかけでもあります。ここまで俺がパーソナルを思い切り出すのは珍しいことですね。

 

――14曲目の「NO LIMIT」のプロデュースはDJ MISTA SHARさん。SHARさんは90年代から地元の藤沢を拠点に活動しているベテランですね。

 

上野 高校時代からの知り合いなので20年以上の付き合いですね。知り合ったのは俺がドリームラップスってグループをやっていた頃。当時、俺は不良じゃなかったんですけど、先輩を崇めないタイプで生意気だったんですよ。そこをSHARさんが気に入ってくれて、よく遊ぶようになったんです。一時期、藤沢に住んでいた時期があったんですけど、チャリで10分ぐらいだったのでSHARさんの家に行って、よくレコードを聴かせてもらってました。あと『大海賊』のプリプロもSHARさんの家でやらせてもらってたんです。そんな関係もあって送ってもらったトラックが「NO LIMIT」だったんですけど、最初は違うオケだったんです。サンプリングの許諾問題なんかがあったんですけど、「上ちょのリリック最高だから絶対に出したい」ってことでトラックを変えてくれて、すごく嬉しかったですね。アルバムで最初にできた曲だったんですけど、自分の出てきた場所を振り返るみたいな気持ちもありましたね。

 

――こうしてお話を聞くと、一朝一夕では不可能な、長年のキャリアで培った人間関係があってこそ作り出せたアルバムだなと痛感しました。

 

上野 ぶっちゃけヒップホップは若い奴らのものだと思うんですけど、そこと同じようなことをしてもしょうがない。同業者の年齢層も上がってきて、そこでどう勝負するかって問題もある。ただ昔から一貫しているのは、俺たちのアルバムは絶対に他の奴らには作れないって自信ですね。

 

 

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サイプレス上野(サイプレス上野とロベルト吉野)

「サイプレス上野とロベルト吉野」のマイクロフォン担当。1980年8月9日生まれ。2000年、同じ「横浜ドリームランド」出身の後輩だったロベルト吉野(ターンテーブル担当)と「サイプレス上野とロベルト吉野」を結成。2007年に1stアルバム『ドリーム』を発表以降、通算6枚のオリジナルアルバムをリリース。2016年11月30日、サイプレス上野と中江友梨(東京女子流)のHIPHOPユニット“サ上と中江”として、フルアルバム『夢見心地』をリリース。2016年10月5日、LEGENDオブ伝説a.k.a.サイプレス上野としてP-VINE設立40周年を記念した日本語ラップMIX CD『LEGENDオブP-VINE日本語ラップMIX』をリリース。著書に『ジャポニカヒップホップ練習帳』(双葉社)がある。現在、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)メインMC、『ハルカウエノセカイ』(TOKYO MX2)メインMC、『THE NIGHT』(Abema TV)水曜パーソナリティ、『Tresen』(FMヨコハマ)火曜日コーナー担当などを務める。

sauetoroyoshi.com

 

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写真=石川真魚
取材・文=猪口貴裕