飲んで飲まれて男談義「おごられ酒」 ANDFAMILY’S 村上 游
男という者、それ即ちそれぞれの道を行く者なり。というわけで、あらゆるシーンで活躍する男たちに“おごられながら”(ここ肝心!)話を聞く連載企画第四回! 今回はハウスブランドを志向する「ANDFAMILY’S(アンドファミリーズ)」の代表・村上游。個性的な経歴を持つ男が、彼自身が経営に参画する名ラーメン店で己を語り倒す!
アンドファミリーズの服を着ておしゃれをしてほしいというわけじゃなくて、格好良くいてほしい。
ーーそうこうするうちに、後輩から引き継いでアンドファミリーズが始まるわけですね。
村上 生産管理のスタッフはいるけど、やっぱり服は僕一人でほぼ作ってるかな。
ーー大事にしてるコンセプトってありますか?
村上 昔から一貫して変わらないのは、「自分が着たいものを作る」こと。それが絶対条件。あと、売り手になるより買い手であることを忘れない。そうじゃないと、自分が欲しいものを作れないからね。あと、お客さんが着た時に服が主張しすぎないことも意識してます。きちんとそれぞれのライフスタイルに馴染むものであることを、意識してるかな。
ーーアンドファミリーズの服って、一見シンプルな部類に入ると思う。そこで聞きたいんですが、シンプルだと見てくれのデザインではなくて、本当の意味での生地感の良さとか、勝負するレベルが変わってくると思います。その部分でのこだわりはありますか?
村上 もちろん、そこはかなり大事にしています。ステッチの幅とか縫製の仕方とかはシャツによって変えてるし、糸の細さもそう。ボタンひとつにしても手縫いが合うのか、それともきちんと留めた方がいいのかとか判断していて。とにかく売り手というよりも買い手だから。今の(年を重ねた)自分が買わないものを作ってもしょうがない。でも、だんだん若いスタッフにブランドを任せていきたいから、柄とか決めるときとかは彼らに意見を聞いたりもするようになったかな。年齢差があるし、それも大事だから。今若い層のお客さんもすごく増えてるんだけど、おしゃれをしたいというよりも格好良くなりたいという意思を持って、服を買ってくれている気がする。俺も、アンドファミリーズの服を着ておしゃれをしてほしいというわけじゃなくて、格好良くいてほしい。おしゃれと格好よさってコンセプトが全然違ってくるでしょ。たとえ白シャツでもサイズ感次第で高級感が出てくるし、サイジングや着方を変えれば、品や見え方は全然違う。そういう意味で、今はお父さん目線というか、ベースはアメカジだけど、次世代に向けた洋服作りはしてると思います。
ーー洋服を好きになるきっかけとか憧れたものってありますか?
村上 僕は10歳くらいから釣りが大好きで、アメリカのバスフィッシングに興味があった。その情報誌に出てくるネルシャツとデニムで、セッター履いて釣竿を持ってるような人に、すごく憧れた。でも小倉にはそういうのを手に入れられるところがなくて。それで東京に来てセッターとかを手に入れた。いまだにそれも持ってるけど、そういうものが大好きなんですよ。レッドウィングとか、20歳の時に買ったものを今でも買ってますから。現行品って2つあると思うんだけど、名前だけで作り続けてる駄作と、何も変えずに作り続けてる良作。それって全然別。ずっと出てるもので言うと、昔からある有名なパックTとか洗うとテロテロになるし全然ダメ。でも、レッドウィングとかは変わってないけど、とにかく良いじゃん。ずっと持ってるとまた違う意味が出てくるし。そういうのをいっぱい持ってるよ、今も。でも、集めているわけじゃないんだけどね。良いものだから、ずっと持ってるだけ。俺は靴に穴が空いていた時代もあるからこそ、物を大切にするの。靴って長く使いたいと思うと磨くでしょ。そういうことを自然とやってると、今でも昔買ったものだって使える。だからいっぱい集めてるように見えても、実際はそういうのが多いだけなんだよ。
一番大事なのは欲をかかないってこと。
ーー村上さんは、ひとつひとつのアイテムに対しても語れるし、すごく思い入れを持ってますよね。
村上 それって培ってきたものだと思う。俺は1967年生まれなんだけど、60年代〜70年代頭に生まれたやつってラッキーだと思う。すべてが海外から順番に入ってきたから。10歳くらいの時の1977年って、スーパーカー、スターウォーズ、ブラックバス、熱帯魚が順番に入ってきた。だから一個一個噛み砕くことができたんだと思う。今みたいな社会じゃできないことだよね。一気に入ってくるから。だから、僕らくらいの年代がやってるブランド、RUDOにもいっぱい載ってると思うけど、彼らはブレてないと思う。
ーーだからこそ、ライフスタイルに馴染む服、自分が欲しい服を作るということにも説得力があると思います。
村上 アンドファミリーズの服はシンプルなものが多いけど、柄のアイディアとかは釣りから来てるものも多いんです。釣りってアメリカだとスポーツフィッシングと言われたりするんだけど、ハンティングとかキャンプとか全部ひっくるめた意味合いなんです。だから、そこで狩りをするようなトナカイとかを柄に選んだりしていて。とにかく僕の一番は釣り。海も川もやる。次はフライフィッシングとかもやりたいね。ただ、(洋服を)釣りのまんまにはしたくないし、都会での生活も大好きだから、それに対応した「MR.GOODMAN(ミスターグッドマン)」というラインも作ってるんです。
ーーアンドファミリーズってシーズンごとに出るアイテム数(今季は約22型)が、他のブランドに比べて多くないですよね。何でなんですか?
村上 生産管理というか、コントロールをしてるんです。大量に出す場合、自分が着ないものまで出さなきゃならなくなる。でも、一ヶ月に必要なのっていくつかのジャケット、パンツだけだし、それが普通でしょ。僕はハウスブランドという意識がある。企業として大きくしていきたいものでもない。だから企画も削るものだらけだよ(笑)。やりたいものがいくつもあるけど、泣く泣く作らない。俺は中卒で頭が悪いけど、自分がこれまで培ってきたものもあるんだよね。それで分かったのは、一番大事なのは欲をかかないってこと。それができればうまくいく。ブランドのスタートは基本僕一人だったけど、幸いなことに今は波に乗れてスタッフもいる。でも、今でもうちのコンセプトとして過剰営業はしないんだよね。「どうですか、買いますか!?」と強くいかない。ビジネス感を打ち出すよりも、共有できる方にじわじわと浸透して、一緒にやっていきたいという感じなんだよ。
ーーそんな中、今後の目標はありますか?
村上 俺に目標なんてないよ(笑)。まぁ、自分には子供がいるわけでもないので、若いスタッフが育ってくれてればいいかな。彼らが僕のことを語り継いでくれたらいいじゃん。あとは、みんなと仲良く過ごしていたいだけ。それがハウスブランドの醍醐味だよね。
村上 游
1967年生まれ
17歳の頃上京し、麻布十番で熱帯魚爬虫類ショップ「TOKYO JUNGLE」をスタート。その後、2012年にアンドファミリーズをスタート。“自分が着たいものだけを作る”という徹底したハウスブランド主義を貫いている。
ANDFAMILY’S
東京都港区麻布十番3-9-6
TEL:03-3457-6669
photo:SAEKA SHIMADA
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*対談場所
利尻昆布ラーメン くろおび
村上氏が知人とともに研究を重ねてオープンさせたラーメン店。2017年に現在の場所へと移転。利尻昆布を贅沢に使用したラーメンは、すっきりとした中にもコクがあってリピーターが続出中。海外からの観光客も数多く、なんと食べログの評価は「3.64」!(2019年8月現在)
東京都港区西新橋1-20-11
TEL:03-6435-6647