TOKYO NO.1 SOULSET結成30周年企画 DJ 川辺ヒロシ INTERVIEW
80年代後半に東京のアンダーグラウンドな音楽シーンで活動を開始し、どのジャンルにも当てはまらない独自の音楽性とスタイルで90年代を席巻したTOKYO NO.1 SOULSET。今年活動30周年を迎え、さらに進化を続けるグループの楽曲制作の中心であり、様々なフロアを沸かせ続ける現役DJでもある川辺ヒロシ氏に、“変わってきたことと変わらないこと”をテーマに、長いキャリアを振り返っていただいた。
音は変わっているけれども、常に新しいものを探していくというところは変わらない
ーーそれでは次に、川辺さん個人の最近の活動についてお聞きしたいのですが、先日13年ぶりの四つ打ちMIXである『LAZY SUMMER MIX』がリリースされました。制作を始めるきっかけなどは何かあったのでしょうか。
川辺 このMIXに収録されているような曲は、いつかまとめて出したいなというのがあって、フォルダーの中に入っていたんだ。ハッチャケていない夏というか、切ない夏という。それをどうしようかと考えている時に今回のコロナがあって、今年の夏はこれだな、ハッチャケられない、気怠い夏だなということで、5月くらいにまとめ始めたんだ。これを普段の何もない年に出したとしたら、聴こえ方がまた違ったんだと思う。なので今年の夏に合わせたというよりは、合っちゃったという感じだね。
ーーこのMIXの雰囲気は、普段のDJとはまた違うモードだと思うのですが、こういったものを世に出したいというのがあったのでしょうか?
川辺 そういうのが欲しいなと思っていたんだよね、世の中にないから。普段のDJでやっているようなものもいつでも作れるけど、それはサウンドクラウドにでも上げればいいかなっていう感じで、これは作品として形にしたいものだったから。
ーー過去に出された四つ打ちのMIXはかなりテクノに寄ったものだったと思うのですが、今回はそこからハウスミュージックに振れたものになっていますよね?
川辺 それはこれまでの話のように、DJを続けていくうちに少しずつ変化しているのだと思う。それが今も続いているっていうね。だから変わらないことといえばそこだよね。音は変わっているけれども、常に新しいものを探していくというところは変わらないっていう。
ーーそれでは最後に、今年は変わらざるを得なかったことものもあると思います。クラブが長期の休業に入り、フェスが軒並み中止になるなんて、これまでのキャリアの中でも経験がないことだと思うのですが、川辺さんのライフスタイルに変化はありましたか?
川辺 しばらくお休みだなっていうのは分かったから、すぐに切り替えて、自粛期間中はレコードをデータ化するっていう、ものすごく時間がないと出来ない作業をしていたね。データ化をするには、レコードを丸々1枚再生する時間がかかるので、1日ずっと作業をしていても少ししか進まないんだ。いつかは整理しないといけないと思っていたレコード部屋をかき分けて、膨大な数のレコードをひたすらデータ化するっていうのを2ヶ月くらい、どこにも出かけずにやっていたね。レコードを聴き直しているうちに新たな発見もあったりして、好きな音楽をずっと聴いていられるこの作業は好きだなって思ったよ。
ーー以前はアナログを買うことがメインだったと思いますが、現在はそれをデータ化しているということで、それ以外でも音楽の聴き方に変化はありますか?
川辺 どんどん増えていっているからね。レコードはもちろん聴いているし、CDはBOSEのラジカセで聴いているし、それを取り込んでMACに繋いだBOSEのサウンドシステムで聴く。SpotifyとApple Musicにも入っているから、それをずっと流しているし、カセットテープもラジカセで聴く。音の流し方にしても、Sonosで飛ばして聴く、AirPods Proで聴く、このスピーカーで聴くって部屋中のいたるところにあるから。だから忙しいよ。前はCISCOに行けばよかったのが、今はBandcampだBeatportだと色々あるから、もう大変。嬉しい悲鳴(笑)。
ーーそれだけ色々な音楽を聴いている中で、現在特に気になっているようなものはありますか?
川辺 特にこれっていうものはなくて、自分に引っかかるようなものは気になってしまって、全部聴きたいっていう感じ。音楽を塊で聴いているからね。DJ以外にも選曲だけをする仕事もあって、例えば「LEXUS CAFE」ではお店の選曲を5、6年やっているんだけど、そういう時にはドラムが全く入っていない曲だけを選んだりすることもあるし。ここ最近でいえば、Buttah CurryのMIX CD『buttah spice mix』を作った時は、今のDJとは真逆の方向に進んでいるしね。カレー屋さんということもあって、トリップMIXみたいな感じになっているけど。他にも旅に出た時は、例えばメキシコに行ったら、帰った後にその風景を思い出したりしてMIXを作りたくなる。今年の正月はテキサスに行っていたので、あの荒野の感じに曲を合わせたくなるし、根室に行ったら広大な風景にあった曲を合わせてMIXを作りたくなる。現地のFMのジングルを使った、やたらと凝ったMIXを作って、友達にあげたりなんかしているんです。許可を取っていないので、どこにも出せないものだけど。そういうので常に忙しいね、誰にも頼まれていないけど(笑)。でも、そういった音楽の聴き方は、この先変わらないんじゃないかな。
TOKYO NO.1 SOUL SET「1990-2020」LIVE
2020年11月28日@渋谷クラブクアトロ
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川辺ヒロシ/HIROSHI KAWANABE(TOKYO No.1 SOUL SET)
1967年3月24日・鹿児島県出身
1990年に渡辺俊美、BIKKEとともに「TOKYO NO.1 SOUL SET」を結成。数多くのトラックメイキングを行う。また、石野卓球(電気グルーヴ)とのコラボユニットInKなど、フロアを沸かせる人気DJとしても有名。今夏には13年ぶりとなるミックスアルバム『LAZY SUMMER MIX』を発表するなど精力的に活動中。今冬にはTOKYO NO.1 SOUL SET結成30周年企画として連続で楽曲配信をスタートさせた。
kawanabehiroshi.com
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photo:TSUTOMU YABUUCHI(TAKIBI)
interview:FUMITO MAKINO
撮影協力:a-bridge
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