何気ない日常を彩る「音楽・酒・料理」 晩酌のススメ 川辺ヒロシ

何気ない日常を彩る「音楽・酒・料理」 晩酌のススメ 川辺ヒロシ

90年代から現在に至るまで、独自の軌跡を描きながら、音楽・カルチャーシーンで存在感を放ち続けるバンド『TOKYO NO.1 SOUL SET』。そのDJである川辺ヒロシ氏に、晩酌をテーマに、「音楽・酒・料理」との付き合い方についてお話を伺う特別企画。「いつもより少しだけテンションが上がる晩酌」をテーマにしたプレイリストとともに、明日への活力になるような晩酌を是非!

 

 

 

 

鹿児島の伊佐米が料理を始めるきっかけに

 

――20代、30代の頃はどのようなお酒の飲み方をされていましたか?

 

川辺 20代の頃はお酒の許容量もわかってなかったし、クルクルパーになればいい、勢いで楽しくなればいいという感じで飲んでいたね。だから、吐いたり、道端で寝ちゃったり、よくある若者みたいな感じ。その頃はお金もなかったので、ビールや、安い酎ハイをつぼ八みたいな居酒屋飲んでいたかな。

 

――そういった飲み方が変わったのはいつ頃からでしょう?

 

川辺 30歳手前くらいになると、良いお店に連れて行ってもらう機会が増えてきて、ワインを教えてもらったり、焼酎ブームが来たりっていうので、こういうちゃんとした世界があるんだっていうのを知ったんだ。ちょうど孤独のグルメが漫画で始まって、それにも影響を受けたし、その頃に映画を観て、ワインにはこれを合わせるといいんだって知ったり、伊丹十三や池波正太郎、開高健を読んで、蕎麦屋で昼から飲んでもいいんだって知ったりしたね。実際に昼から蕎麦屋へ行って、板わさで日本酒を飲んだりしてみたしね(笑)。

 

――20代に家でお酒を飲むことはありましたか?

 

川辺 20代はなかったね。家には気絶しに帰るような感じだった。まともな食生活なんてしてなくて、外食やコンビニ飯ばっかり。料理をするようになったのは、30代に入ってからかな。

 

――どういったきっかけで料理をするようになったんですか?

 

川辺 30歳くらいから、コンビニ飯みたいな雑な食生活がしんどくなってきて、ご飯を家で炊くことにしたんだ。炊飯器だけ用意してご飯を炊いて、おかずは買ってくればいいって感じで。それで、鹿児島の実家から伊佐米って米を送ってもらったんだけど、それが衝撃を受ける美味しさで。あの米があるってなると家に帰るのが楽しくなってきて、今思うとあれがターニングポイントだったね。

 

――鹿児島のお米がきっかけだったんですね。

 

川辺 その時の米は、おかずが缶詰とかでもご飯がモリモリ食べられるくらい美味しかったんだけど、次の年に同じものを頼んだら、味が少し変わっていたんだよね。前の年が当たり年だったらしくて、奇跡的に美味しかった。その辺りで、パスタだけは覚えようって友達に教えてもらったりしているうちにメニューが増えていった。ペペロンチーノを覚えようと作ってみて、店の味と何か違うなってなったら、周りの友達が「コンソメを足してみたら?」、「塩が足りないんじゃないの?」と教えてくれて、そういうのが楽しかったね。それで、柳宗理のパスタ鍋とか、グローバルの包丁やフライパンを揃えたりして。当時はSNSもなかったし、レシピ本を買ってきて、新しい料理を試したりしていたかな。面倒でやらなかっただけで、18、19歳は東急ストアでお惣菜を作っていたから、料理の素養はあったんだよ(笑)。

 

――料理をするようになって、生活は変わりましたか?

 

川辺 道具を揃えて家で作るようになると、お腹が空いた時に外へ買いに行ったり、外食することの方が面倒になってきたんだ。家で作った方が楽だなって。

 

――これまでの生活からは考えられないような。

 

川辺 そうだね。後は俊美君(TOKYO NO.1 SOULSETのVO.G)の影響もあったかな。彼も池波正太郎や太田和彦の本なんかを読んでいて、わらびみたいな食材を料理して、日本酒を飲むのがいいっていう話をしてたんだ。

 

――ちょっと先を行っている感じがありますよね(笑)。

 

川辺 「シブいな〜」って思ってたよね(笑)。あの人はもともと料理がうまいし、一つのことにハマると突き詰めるタイプだから。ある時期は小籠包作りにハマって、粉をあちこちから取り寄せてきて、皮から自分で作っていたからね。それを中華街にあるような蒸籠に20段くらい重ねて食べているって話をしていて。家族3人なのに(笑)。そういう話を聞いて、刺激は受けたよね。自分で皮から作ろうとは思わなかったけど。

 

――家でお酒を飲むようになったのはその頃からですか?

 

川辺 その頃から飲むようになったね。最初はビールとかを飲んでいたけど、途中からホッピーのリターナブル瓶をケースで頼むようになって、キンミヤで割って飲んだり。それと、実家から送られてくる芋焼酎を飲んだりしていたね。

 

 

 

 

 

 

独身時代は毎晩自宅で、一人居酒屋を開店

 

――ツマミも自分で作っていたんですか?

 

川辺 夜中にベロベロでフライドチキンを揚げたりしていたね。今考えると怖いけど。当時、彼女がいない時期が長かったから、枝豆を薄皮まで剥いて、茗荷とわさび醤油で和えるみたいな料理をテーブル一杯に用意して、シーンとした部屋で「居酒屋ヒロシ開店です〜」って言って一人で食べる(笑)。そういう期間が結構続いてた。この頃は、自分が人の家に行くことはあっても、誰かを呼ぶってことがなかったから。

 

――晩酌の時に音楽を聴いたりはしていましたか?

 

川辺 基本、音楽は常に流れているし、テレビのMTVみたいな音楽チャンネルを見たりもしていたかな。あとは、海外サッカーを観ながらっていうのが多かったね。当時は小野や俊輔が海外に行った時期で、試合が夜中の1時からとかだったので、それを観ながら晩酌をしてた。それで、気がついたら朝の8時になっていて、最後にめざましテレビの今日の運勢を見てから寝るっていうのが日課みたいになっていたね(笑)。

 

――DJでかける曲と、晩酌で聴く音楽って違ったりしますか?

 

川辺 とにかくDJの数が多かったし、ソウルセットのサンプリングネタを探すっていうのもあったから、それを確かめるために聴くっていうのがまずあった。レコードはずっと買い続けているので、それを聴いて、引っかかったやつをチェックする。ただ、酔っ払ってくるとそんな聴き方はできないから、そうしたら止めて、サッカーを見始めるっていう。

 

――ゆっくりと音楽を楽しむという感じではなかったんですね。

 

川辺 寝るときにも頭の上のラジカセでずっと音楽を流していたから、その時は自分が聴きたいものをかけたりしていたけどね。でも、ゆっくりと音楽を聴くようになったのは本当に最近になってからかな。

 

 

 

 

 

 

結婚してからの晩酌の変化とは?

 

――そうした変化は、ご結婚された影響もあったりしたのでしょうか?

 

川辺 それもあるかもしれないね。結婚してから、テーブルセッティングをして、ゆっくりと食事をするみたいになっていって。聴く音楽もずっと変わってきているし、食事の時は四つ打ちじゃなくて、ゆっくりした曲がいいって自然となっていった。

 

――ご結婚されてから、晩酌の内容に変化はありましたか?

 

川辺 まず変わったのは、家に人を呼ぶようになったことだね。それまではホームパーティーにお呼ばれする方だったんだけど、自分の家に人が来てくれるような人生があるとはって。

 

――川辺さんは今でも料理をしたりするんですか?

 

川辺 作ってるよ。鍋だったり、麻婆豆腐だったり、居酒屋メニューみたいなものが多いね。何時間もかけて、スパイスからカレーを作ったりっていうのはしない(笑)。

 

――どんなときに料理をされるんですか?

 

川辺 今でも料理本を読んだりするんだけど、食べたことがないものを見つけるとすぐに作ってみたくなる。例えば豚肉をウスターソースだけで焼くっていうのを見ると、どんな味がするんだろうってなるし、この前はラム肉をクミンと花椒で味付けして焼くっていうのをやったんだけど、「神田味坊の味付けを家でできる!」って嬉しくって(笑)。今でもそういう感じで料理はしているね。後は、奥さんが畑を始めたっていうのも大きい。

 

――紀子さんのブログで拝見していますが、本格的ですよね。

 

川辺 今も畑で採れた大きいキャベツが家に4玉あって、「う〜ん、これをどうやって食べよう」って(笑)。他にも、大量の玉ねぎが家の外に吊るされていたり、2メートル四方の新聞紙に大量の里芋が包んであったり、「どうすんのこれ」って(笑)。

 

――里芋の料理ってそんなに思いつかないですよね?

 

川辺 奥さんが作る料理で、里芋をふかしてハンバーグみたいな形にして、焼いたりコロッケにしたりするのがあるんだけど、それがすごく美味しくて好きなんだ。他にも里芋のポテトサラダをよく作ってくれるんだけど、それもすごく美味しい。今までは里芋ってそんなに好きじゃなかったんだけど、畑で採れたものをそうした料理で食べたら、めちゃくちゃ美味いってなった。

 

――畑で採れた大量の野菜を、いかに美味しく食べるかっていうモチベーションがあるんですね。

 

川辺 そうしてメニューが増えていって、スキルも向上していく。冬に妹尾河童の本にも出てくる、ピエンロー鍋っていうのをやるんだけど、そのためにオレンジ白菜を植えてくれってお願いして。それまでは普通の白菜を植えていたんだけど、今ではその区画全部がオレンジ白菜になってる。それは友達にも好評で、時期が近くなると「あれまだ?」って聞かれるよ。やっぱり畑で採れた野菜はなんでも味が強くて、変に手をかけないほうが美味かったりするんだ。健康にもいいしね。

 

――お酒の飲み方も変わりましたか?

 

川辺 食事もそうだけど、お酒の好みも少しずつ変わってきたね。ワインにしてもナチュールの軽い口あたりのものしか飲まなくなってきたし、芋焼酎も、炭酸で割ったりお湯割にしたり。お酒に関しては、いろいろなものを飲むってことがなくなって、シンプルになってきたね。

 

――晩酌中はどんな楽しみ方をされていますか?

 

川辺 撮りためたテレビの録画、アメトークとかを見たり、映画を流したりかな。サッカーは大事な試合しか見なくなったんだけど、集中しすぎちゃうから晩酌には向かないんだ(笑)。

 

 

 

 

 

 

最近の晩酌中に聴く音楽は?

 

――最近の晩酌中の音楽は、どのようなものが多いですか?

 

川辺 相変わらず、ありとあらゆるものを聴いてはいるよ。中でも最近、晩酌中に聴くのは、デモ音源みたいにラフな録音のものが多いね。Nick Drakeの死後に出た、家で録音した音源だったり。そういうものは海賊版だったりもするんだけど、プライベート感というか、ちゃんとしたスタジオで録音したものじゃない音がすごくいいなと感じていて、レコードを探して買ったりしているね。だから今回のプレイリストも、全体的にそういった曲が多くなってる。

 

――プレイリストを聴かせていただきましたが、全体的に独特の心地よさがありました。

 

川辺 今回のプレイリストには入っていないけど、そこから酔いが深くなってくると、最後はトリップ感みたいなところに行くんだ。ミニマルミュージックみたいに、ずっと同じフレーズが鳴っているようなもの。結局そこにたどり着く。例えるなら、多幸感に包まれた、天国で鳴っているような音だよね(笑)。あの世の音楽みたいな。

 

――プレイリストに続きがあれば、そうなっていたんですね(笑)。それでは最後に、世の中的にもようやく日常が戻りつつありますが、これからの活動についてお聞かせください。

 

川辺 まず、ソウルセットのレコーディング制作をしようという話があるのと、ライブの企画が結構あります。6月から世田谷のライブハウスを4ヶ月連続で4ヶ所回る「世田谷Blooming」シリーズが始まるし、その他にもフェスだったりとか、そういった話がやっと動き出してきている。

 

――毎月1本はライブがある感じですよね。

 

川辺 他にも、もちろんDJの方も増えてきているしね。それと並行して、自粛期間からやっていた、ソウルセットのアーカイブ展も続けていきます。それは、ツアーができなかった代わりに、これまでのソウルセットのグッズや、雑誌の切り抜きなんかを展示して見てもらうっていう企画なんだけど、今後も継続して、いろいろな地方を回る予定です。これまで、地方のファンの人と面と向かって話をする機会っていうのがあまり無かったので、新鮮で面白いし、楽しみにしています。

 

 

 

音楽と酒の妙味を知る川辺ヒロシ選曲

「晩酌」プレイリスト

 

1.KEVIN AYERS – MAY!?
2.NICK DRAKE – FLY
3.ARTHUR RUSSELL – A LITTLE LOST
4.JOHN MARTYN – COULDN’T LOVE YOU MORE
5.“BLUE” GENE TYRANNY – NEXT TIME MIGHT BE YOUR TIME
6.JOE TOSSINI – WILD DREAM
7.ALEX CHILTON – LET’S GET LOST
8.突然段ボール – イパネマの娘
9.井上陽水 – PI PO PA
10.KAREN DALTON – SOMETHING ON YOUR MIND
11.EVA CASSIDY – OVER THE RAINBOW
12.THE DURUTTI COLUMN – BORDEAUX
13.HOUSTON & DORSEY – EBB TIDE
14.BLANK GLOSS – WALKING TOWARD THE END
15.小泉今日子 – カントリーリビング

 

 

*お聴きになる際はApple Musicへの登録が必要になります。

 

 

 

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川辺ヒロシ/HIROSHI KAWANABE(TOKYO No.1 SOUL SET)
1967年3月24日・鹿児島県出身
TOKYO NO.1 SOUL SETのDJ兼トラックメイカーを務め、80年代後半から活躍する人気DJでもある。その他にも、様々なアーティストへの楽曲提供やREMIXを手がけ、近年では映画『SCOOP!』やドラマの劇伴を担当するなど、活動の幅を広げている。

 

*川辺ヒロシ DJスケジュール

第1&第3水曜:渋谷@DJ BAR BRIDE
第2金曜:新宿@DJ BAR BRIDGE

 

*TOKYO No.1 SOUL SET スケジュール

7月10日:「世田谷Blooming-2」@下北沢QUE

7月24日:「-cabo23rd party-」@大阪シャングリラ
8月14日:「Latin Quarter & Oppa-La presents – 明日へのハイウェイ -」@江ノ島OPPA-LA

 

 

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photo:TSUTOMU YABUUCHI(TAKIBI)
interview:FUMITO MAKINO

 

撮影協力:LOU

東京都中野区中野5-53-4

TEL: 03-3387-0888